成田市御案内人活動報告

2018年6月24日(日)
第一回成田市歌舞伎講座「歌舞伎の魅力・歌舞伎の仕掛け」

今回は歌舞伎の魅力を深く知っていただくために二部構成で行いました。

【1部】 歌舞伎の魅力 / 講師 歌舞伎座舞台株式会社 顧問 金田栄一
【2部】 歌舞伎の仕掛け / 講師 藤浪小道具株式会社 演劇部演劇課長 近藤真理子

第一部では金田栄一氏より歌舞伎の由来や歌舞伎独自の舞台手法(隈取、花道、セリ・すっぽん・廻り舞台等)を中心に、初めての方にも歌舞伎の魅力を分かりやすくお話いただきました。

歌舞伎の語源について

歌舞伎の語源は「傾く(かぶく)」から来ており、奇抜で華やか、型破りといった意味で、慶長8年(1603年)に出雲阿国(いずものおくに)という女性の一座が京都の四条河原で人気を博し、その異様な奇抜さから「かぶきおどり」と呼ばれていた。

出雲阿国像(京都四条)

舞台について

歌舞伎には「見せ方の工夫」が色々とあるが、中でも「花道」「廻り舞台」「セリ」といった舞台機構はその代表格である。花道に役者が登場し七三と呼ばれる所で立ち止まるが、ここに立つ人物は観客の視線を一身に集める。カメラや照明が無かった頃にこういったクローズアップの手法を編み出した歌舞伎の人たちは、実に優れたアイデアの持ち主である。また、「廻り舞台」「セリ」といった舞台機構も世界に先駆けて歌舞伎が考案している。

「廻り舞台」
オペラハウスなどでも取り入れられているが、歌舞伎が考案している。
コマ回しのコマをヒントに作られたと言われており、お客さんが見ている中で舞台を廻し、道具の転換も演出の一つとして行われている。

「セリ」
舞台を四角く切っており下から人物が出てくる。当時は紐を引っ張る事により上に上がってくるカラクリとなっていた。本舞台にもいくつか「セリ」があり、花道に設置されたセリを「すっぽん」と言い、すっぽんから出てくるのは、普通の人間ではなく、幽霊か鬼か動物が化けている。

隈取について

隈取は大きく分けて赤い隈取と青い隈取がある。赤い隈取は正義のスーパーマンで、顔の筋肉や血管が力強く浮き出ている様子を表している。一方、青い隈取は敵役、つまり青筋が立っていると考えれば分かりやすいだろう。こういったことも今ならアニメやCGで簡単に表現できるが、これを元禄時代の初代市川團十郎が考案したのだから、見事な時代の先取りである。

隈取は、役柄を見ただけで判断出来るように工夫がされている。

見得(みえ)について

いかにも歌舞伎らしい演技法のひとつ。首を回すなど大きな動作をしたあと、動きを止めて暫くの間ストップモーションを見せる。大きく目を開いてにらむことが多く、やはり目力が重要。これも一種のクローズアップ効果であり、時にはざわついた客を舞台に注目させる恰好の手段でもあったようだ。

六方(ろっぽう)について

六方は歩く芸の代表格。語源には諸説あり、江戸の「六方組」と称する連中の気取った歩きかた、また「天地東西南北」の六方向に手を動かすからという説もあり、最も代表的なものに『勧進帳』弁慶の「飛び六方」がある。

「早替り」と「宙乗り」

観客をアッと言わせる演出法に「早替り」や「宙乗り」があり、幕末期に活躍した四代目市川小團次が得意としていたが、明治以降、歌舞伎が高尚化するにつれ「ケレン(本流ではないという意味)」と呼ばれて遠ざけられていた。しかしこういったところにこそ、歌舞伎の持つ傾(かぶ)いた精神が息づいているわけで、近年は多くの演目に取り入れられ人気も高まっている。

三色が適度に主張し合っている定式幕(じょうしきまく)

歌舞伎で使われる三色の縦縞の幕を定式幕という。定式とは「いつも使うもの」という意味で、「黒・柿色・萌葱(もえぎ)」の三色であるが、それぞれの色が互いに主張し合い不思議なパワーと粋な味わいを醸し出している。並び方には2種類あり左から「黒・柿・萌葱」が歌舞伎座などで採用され(旧・森田座式)、「黒・萌葱・柿」(旧・市村座式)が国立劇場で使われている。また平成中村座は「黒・白・柿」の旧・中村座式である。

衣裳の色だけでもわかる身分と役柄

衣裳には細かい分類や約束事があるが、色だけでもおおよその見当が付く。赤はお姫様に代表され、美しく身分が高く、また一途な思いを赤い衣裳で表現し「赤姫」という呼び方がある。紫は高貴な身分で『勧進帳』の義経や、いろいろな演目の殿様、奥方などに使われている。一方、緑は野原のイメージから田舎娘などに使われ、黒や茶色は敵役や憎まれ役に使われている。

文様と柄

役者が使う文様や浴衣(ゆかた)の柄など、ここにも洒落の精神が現れている。團十郎の定紋「三升(みます)」も秀逸だが、やはり團十郎の「鎌輪ぬ(かまわぬ)」、菊五郎の「斧琴菊(よきこときく)」など絶妙なネーミングも加わってそのデザイン性は抜群である。

第二部では、近藤真理子氏より歌舞伎の仕掛けの魅力についてお話をいただきました。

藤浪小道具株式会社について

江戸時代、藤浪與兵衛が猿若町(現在の東京都台東区浅草6丁目)にあった市村座の小道具の仕事をしており、明治5年に藤浪小道具株式会社を創業した。
明治維新を迎え、生活様式が変わる中で江戸時代は必要だった刀や武具や馬具が手放されていくのに目をつけ、舞台の小道具として使えるのではないかとレンタルサービスを考えついたのが創業のきっかけだと言われている。
現在も旧猿若町にある本社には、創業当時、小道具を保管するために建てた蔵が残っており、関東大震災や東京大空襲を経ても現存しているほど頑丈な蔵であった。

小道具の仕事について

劇場で歌舞伎のお芝居の進行とともに小道具の転換作業と、そのメンテナンスを行っている。服装は、目立たぬように黒い服装となっている。

お芝居の進行で必要なものを必要な場所に設置し、割れたり欠けたり壊れたりしたものを随時補充したり直したりメンテナンスの作業もしている。
小道具を分かりやすく言うと、引っ越しの時に持って行くものは全て小道具で扱っている。小さいからというわけではない。机や箪笥や車なども小道具になる。
大道具さんが家を建てた後に小道具の仕事が始まる。

小道具の仕掛け

ジャリ糸と呼ばれる黒い糸を引っ張ることによりまな板の魚が勢いよく跳ね上がる仕掛けになっている。舞台の床に穴を開けておきジャリ糸を下に垂らしておく。舞台の下では出演している役者の弟子が引っ張っている。

舞台の上では実際に魚を捌く場面もあり、包丁(木製)を使い鰹を半身に捌き実際にお芝居の中でも大切なアイテムとなっている。

赤ちゃんは人形で代用するが、その人形にも仕掛けがされており、下にある紐を引っ張ると一瞬にしてお地蔵さんに変わってしまう仕掛けが施されている。役者の要望に対し仕掛けを考えるのも小道具さんの仕事の一つとされている。

差金(さしがね)の蝶々

黒い棒の先に蝶を付け舞台上でひらひらと宙を舞う演出に使用する。黒は見えないとされている。黒い棒は「さしがね」(陰で操る)と呼ばれており、現代用語でも使われている差金の語源となっている。羽を広げたまま物に停まると蛾となってしまうため、手元には仕掛けがされており輪っかを引っ張ることにより羽をたたむ仕掛けとなっている。 こちらは役者の提案により近藤氏が現場で考えた。

小道具さんの悩み

お芝居のキーポイントになることも多く消耗品である蓑が最近手に入らない。
わらじなどはお祭りや民芸品などでまだ作られているが、今では実用性のない蓑を作っているところがほとんどなく、天然素材で作った蓑が手に入りにくくなっていることが悩みだった。
色々調べてみると、「千葉県立房総のむら」で蓑作りをしていることを知り、藤浪小道具で使っていた蓑と、形も素材もとても近かったので、房総のむらの方々に協力してもらい現在は社内で作っている。