成田市御案内人活動報告

2017年8月 6日(日)
歌舞伎講座 第3回「歌舞伎の小道具」

講師に藤浪小道具株式会社 演劇部演劇課長の近藤 真理子さんをお迎えし、第3回「歌舞伎の小道具」を開催いたしました。

2000年に入社後、歌舞伎を始め様々な商業演劇の裏方として経験を積み、最近は市川海老蔵の舞台を中心に多くの歌舞伎公演のチーフを務める近藤さんに歌舞伎の小道具の魅力についてお話いただきました。

実際に使用されている小道具をたくさん持ってきていただき、講演後は触れたり写真を撮ったり貴重な体験をさせていただきました。

お越しいただけなかった方のために、内容の要点をご報告いたします。

藤浪小道具株式会社について

江戸時代、藤浪與兵衛が猿若町(現在の東京都台東区浅草6丁目)にあった市村座の小道具の仕事をしており、明治5年に藤浪小道具株式会社を創業した。

明治維新を迎え、生活様式が変わる中で江戸時代は必要だった刀や武具や馬具が手放されていくのに目をつけ、舞台の小道具として使えるのではないかとレンタルサービスを考えついたのが創業のきっかけだと言われている。

現在も旧猿若町にある本社には、創業当時、小道具を保管するために建てた蔵が残っており、関東大震災や東京大空襲を経ても現存しているほど頑丈な蔵であった。

頑丈な蔵を建て、歴史ある小道具を収めておいてくれたおかげで、現在も同じような道具で歌舞伎の舞台が出来ている。

今も当時と変わらず歌舞伎だけでなく、時代劇や現代劇、テレビに小道具の貸し出しも行っている。

小道具の仕事について

実際に歌舞伎の舞台について大道具さんや照明さんと一緒に転換作業をするのが仕事である。

大道具さんと同じように黒のTシャツに黒いパンツに黒い足袋に雪駄を履き、腰にガチ袋をつけている。ガチ袋の中には、なぐり(トンカチ)やペンチなど工具を入れている。

また、お芝居の進行で必要なものを必要な場所に設置し、割れたり欠けたり壊れたりしたものを随時補充したり直したりメンテナンスの作業もしている。

小道具を分かりやすく言うと、引っ越しの時に持って行くものは全て小道具で扱っている。小さいからというわけではない。机や箪笥や車なども小道具になる。

大道具さんが家を建てた後に小道具の仕事が始まる。

成田屋の得意な荒事の小道具

荒事とは、悪者をやっつけるスーパーヒーローのお話。

力強い演技表現で演じるため、超人的な人を表現するために普通の人が持たないような誇張された持ち物を用意する。

「矢の根」の小道具

曽我五郎が父の仇を討つために矢の根を研いでいる時に使用される鏃(やじり)。身長よりも大きい鏃(やじり)で力強さを演出している。

兄の十郎が夢で助けを求めてきたので、たまたま通りかかった大根売りの馬を奪い向かっている時に、腰につけた2本の刀。通常武士が帯刀するのは2本だが、通常より大きく重い刀で力強さを表現している。

「暫」の小道具

高い下駄を履き、大きなカツラを被るので市川海老蔵が演じると2mは超える。そして7尺(約2.1m)ほどの刀を腰につけている。

通常、刃の部分は木の上に錫の入った薄いアルミホイルのようなものを巻いているが、荒事では黒くすることが多い。

その昔、初代市川團十郎が舞台上で刺殺されたため、本物と小道具を見分けるために一時期は刀の刃を黒くしていた。次第に銀色も許されるようになり、現在では本物と変わらないような銀色になっている。しかし荒事では誇張された演出上、今でも黒色になっている。

「勧進帳」の小道具

弁慶の力強さを表現するため、一部荒事の表現が使われている。

成田屋のお家芸のため、他の家の方たちが演じる場合は巻物の色を変えたり小道具に変化をつけている。

小道具さんの悩み

お芝居のキーポイントになることも多く消耗品である蓑が最近手に入らない。

わらじなどはお祭りや民芸品などでまだ作られているが、今では実用性のない蓑を作っているところがほとんどなく、天然素材で作った蓑が手に入りにくくなっていることが悩みだった。

色々調べてみると、「千葉県立房総のむら」で蓑作りをしていることを知り、藤浪小道具で使っていた蓑と、形も素材もとても近かったので、房総のむらの方々に協力してもらい現在は社内で作っている。