成田市御案内人活動報告

2019年8月 3日(土)
第2回成田市歌舞伎講座「歌舞伎の衣裳」

歌舞伎講座第2回目となる今回は松竹衣裳株式会社から髙橋孝子(たかはしたかこ)さんを講師にお招きし、歌舞伎の舞台を華やかに彩る衣裳について解説していただきました。
また、着付けの実演も併わせて行っていただきました。

髙橋孝子さんは1998年に松竹衣裳株式会社に入社。さまざまな演劇公演の衣裳担当として活躍し、現在は歌舞伎の衣裳を中心とした展示や解説などにも活動の幅を広げています。

現在歌舞伎の衣裳は、松竹衣裳と日本演劇衣裳の二社で担っており、演目に合わせた衣裳の用意や劇場の舞台裏での俳優さんの着付けなどを行っています。

江戸時代には森田座、市村座、中村座、など歌舞伎の興行を行う芝居小屋がありました。各座には衣裳を管理する「蔵番」という係がおり、俳優や演目に合わせて蔵から衣裳を取り出して用意を行っておりました。
髙橋さんは現在の「蔵番」といった存在になります。
今は劇場に入ると「蔵番」ではなく、「衣裳さん」や「衣裳屋」と呼ばれているそうです。

附け帳

歌舞伎の演目・配役が決まると狂言方(きょうげんかた)という部署から「附け帳(つけちょう)」が届きます。演目に始まり、配役などが記されています。これをもとに衣裳を用意しています。この附け帳は今後の参考にするため、今回の演目ではどういった衣裳を用意したのかなどの詳細も、覚書として記入しています。

演目によって俳優さんとどういった衣裳にするのか打ち合わせを行い、新調する場合は染め屋や織物屋に発注します。仕上がってきた生地を裁縫の部門で仕立てていきます。

歌舞伎の演技には「型(かた)」という決まり事がありますが、衣裳にも同様、「この役にはこの衣裳」といった決まり事があります。
しかし、同じ演目でも演じる俳優さんによって演じ方が異なる場合もあり、それに合わせて衣裳の柄の大きさや色、配置、時には柄自体を変えて仕立てることもあります。

ここからは実際に舞台で使われている衣裳を例にとって解説していきます。

『外郎売(ういろううり)』

『外郎売』は歌舞伎十八番の演目のひとつとなります。衣裳は成田屋の決まりごととして仕立てたねずみがかった青色で独特な色をしています。
今年の七月大歌舞伎で海老蔵丈と勸玄さんが親子で外郎売を共演した際の衣裳は、勸玄さんに合うように、従来のものより明るい色でお願いしたいと海老蔵丈からリクエストがあり、色味を変更しています。

従来の色は藍の色をベースに、納戸という青色にねずみ色を加えたものになります。
今回の色も同様に藍の色をベースにしていますが、七月大歌舞伎では水色に近い色に黄色を加えて作りました。

首抜き

『牡丹花十一代(なとりぐさはなのじゅういちだい)』

『牡丹花十一代』という演目の衣裳です。胸から肩と背中にかけて大きな模様があり、首を抜いたところが一つの模様に見えることから「首抜き」という名称がついたといわれています。

『寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)』小林朝比奈

こちらの小林朝比奈の衣裳は、背中側に鶴が羽を広げた状態で、肩に覆いかぶさるような大胆な柄となっております。首抜きでもこのように誇張した表現が用いられることもあります。

『暫』鹿島入道震斎

歌舞伎十八番の演目である『暫』で使用される衣裳です。こちらの衣裳も背面から前面に向かって大胆にタコが描かれています。首抜きは伊達男や鳶などいなせな役やお祭りの場面で着られることが多いです。

首抜きの例

鳶頭や船頭の役に染め抜く柄は、役を演じる俳優さんの紋を用います。俳優さんの体型に合わせて柄の配分を決めるのは至難の業です。

左が「乱菊」右が「追っかけ五枚銀杏」

『極付幡隨長兵衛』では、長兵衛を演じる俳優さんの紋を子供の長松の着付けに用いることになっています。今年1月の新橋演舞場で行われた初春歌舞伎公演では海老蔵丈が長兵衛を演じたので、長松役の勸玄さんの衣裳には壽の字海老の紋が入っています。

壽の字海老

着付けの実演

成田市指定の無形文化財である「伊能歌舞伎保存会」のお二方にモデルとしてご協力いただき、実際に着付けを行っていただきました。

伊能歌舞伎保存会

江戸元禄時代に始められたと言われている約320年の歴史を持つ農村歌舞伎で、伊能地区にある大須賀大神(おおすかたいじん)の祭礼の奉納芝居として上演されていました。昭和40年に1度は途絶えたものの、平成になり伊能歌舞伎保存会を発足し、地域の方々のご尽力で、みごとに復活し、毎年の定期公演等勢力的に活動しています。

立役(藍裃)の着付け

着物を着る時と同じように身体を補正します。織物の裃などを着る場合は、かなりしっかりとお腹周りを作り込む必要があります。足が見えないようにひも付きというものを身につけます。実際にはここまでは俳優さんが自身で行っています。

手筒を通し、襦袢を着ています。お芝居の便宜上と動きやすさを兼ねて、短い着流しを重ねます。

帯、肩衣、袴を付けて完成です。

『京鹿子娘道成寺』白拍子花子の着付け

先ほどと同様に下ごしらえします。女方の場合は、より女性らしく美しく見えるような身体の補正に加えて、襟足をどの程度塗るかや肌襦袢のかかり方を調整といったことも、俳優さん自身で行います。

立役の時と同じく、動きやすいように上下に分かれた襦袢を着ていきます。男性と違い女方は胸元をしっかりと締めるために、紐の位置は上に上がります。

俳優さんによって襟を四角く抜くのか丸く抜くのか、それぞれ好みがあるので俳優さんによって変えています。男性の場合は襟を広めに見せることで、逆に肩幅が狭く見えるような効果があります。

振り帯の場合は二部式になっており、先に胴の部分を着付けていきます。二部式にすることで俳優さんが身体を動かしやすくなり、早替えの時の時間短縮にもなります。
帯にあしらわれている杵をモチーフにした紋様は、狂言紋の中のひとつで、五穀豊穣を意味しています。

白拍子花子の着付け完成です。振袖に長い振り帯で、娘の姿を表現した衣裳となります。

モデルのお二人にご協力いただき、撮影会も行いました。

参加者の声
〇着付けの様子もあわせてみることができ、貴重な経験ができました。
〇モデルが伊能歌舞伎保存会の皆さんなのがよかった。実際にお芝居をしている人がモデルというのがよかったです。
〇今年6回歌舞伎座で見ています。8月歌舞伎も行きますが先日市川海老蔵さんの13回の早変わりを見て衣裳替えが大変とみていました。今日その一端を見ることができてよかった。