成田市御案内人活動報告

2017年7月 8日(土)
歌舞伎講座 第2回 特別講座「歌舞伎の大道具」

講師に歌舞伎座舞台株式会社の取締役である足立 安男さんをはじめ、背景画(桜が咲く山の景色や吉原の風景など)や襖の模様など大道具の絵画を担当している絵描きさんをお迎えし、第2回 特別講座「歌舞伎の大道具」を開催いたしました。

第2回目も大変多くの方にお越しいただき、映像や実演を交えたりして、歌舞伎の舞台装置や背景画などの様々な仕掛けについてお話いただきました。

お越しいただけなかった方のために、内容の要点をご報告いたします。

大道具について

江戸時代初期は道具方(どうぐかた)と言われており、舞台の大道具、小道具全てを担当していたが、江戸中期、道具方の1人が小道具をよくするから小道具専門になり、大道具、小道具と分かれるようになった。

古くから歌舞伎とともに歩んできており、今は歌舞伎座舞台株式会社という会社だが、その前は昭和57年まで長谷川大道具を名乗っており、その前は大道具長谷川という職人集団であった。

歌舞伎発祥から40年後ぐらいに始まり、360年ほど続いている。

背景画について

絵描きさん3名が登場し、歌舞伎の背景画がどういう役割を果たしているのか、写真を観ながら解説していただきました。

仮名手本忠臣蔵 大序・鶴ヶ岡社頭兜改めの場

上手下手にある実寸台の回廊は塗り方さんが担当しており、奥の遠近感が出るような背景画を担当している。

歌舞伎は縁起をかつぎ「七五三」の奇数であることが多く、松の並びも奇数となっている。

絵を描く場合もあるし、パーツをつけた布を貼って臨場感を出す場合もある。

時期的に春先の設定だが、銀杏のイメージと言えば枯れた色なので昔からこの色でやっていたが、一度役者さんの要望で枯れてない青い銀杏にしたこともあるが、実際見てみるとやはりおかしいので元の枯れた銀杏に戻した。

歌舞伎は役者が舞台演出や舞台監督をやるから舞台稽古の間に変更することもあるので、それに対応するのも仕事である。

仮名手本忠臣蔵 三段目・松の間刃傷

金の障壁画の部分を担当している。金は絵描きさんの仕事、金を貼るのは経師(きょうじ)屋さんの仕事、欄間や壁は塗り方さんの仕事と分かれている。

代々、松の廊下をイメージして描くように言われている。

金は下書きが見えず、ほとんど下書きをしない状態で描かなければいけないので、金に絵を描くことはとても難しい。

立てたまま描くのではなく床に寝かせた状態で描くので照明の照り返しがとても眩しい。

銀の方が眩しい。銀は眩しすぎて道具として成立しないので、艶を落として描くようにしている。

寝かして描いた後に起こして実際の照明の当たりを見ながら舞台上の役者さんがちゃんと見えるように絵の具の調整をする。

仮名手本忠臣蔵 六段目・勘平腹切

遠見(とおみ...背景の風景)は背景画の基本である。ぼかしの技法や平に塗る技法など歌舞伎の絵描きに必要な技法が入っているため、これを楽に全部1人で描けるようになったら一人前と言われている。

舞台の端の柱から端の柱まで18mある。役者1人で2,000人ほどのお客様を惹きつけるのはとても大変なことなので、役者の芝居がよく見えるように大きく見えるように、助けにはなっても邪魔にならないような絵を描いている。

関西風の描き方と江戸風の描き方があり、これは関西風になっている。

左側は花道もありよく使われる場所なのでどちらも背景は描くが、右側はあまり使われない場所なので江戸風の場合は真っ黒にして風景を描かない。どちらにするかは役者に合わせる。

仮名手本忠臣蔵 三段目・道行旅路の花聟

設定は戸塚の山中なので本当は富士山は見えないが、歌舞伎はそれらしい雰囲気を求められるので描いてある。

明るい雰囲気で終わるように本当は三段目だが昼の部の最後になるようにしている。

※映像では八段目となっておりますが、正しくは三段目です。

仮名手本忠臣蔵 十一段目・高家表門討入り

奥に雪の遠見があり前に門がある。

こちらも気持ちよく帰っていただけるように夜の部の最後になるようにしている。

背景画の描き方

1.下書き

道具帳(舞台の1/50のサイズで描かれた見本)を見ながら描く。

客席から見た時、照明があたった時、役者さんが立つことを考えた時にあまり背景が主張しないように、それでも描いてあるものはしっかり描く。

2.地塗り

全体に色付けする作業。10人以上で全体の9割の色付けをする。

微妙に違う色を重ね塗りしてグラデーション(ぼかし)を作ったり、色の濃淡で遠近感を出す。

30分で地塗りは終了する。

3.仕上げ

細かい部分を描き込んでいく。

実演

荒波

まず、長い棒の先に付けたチョークを使って下書きを描き、絵の具と水を刷毛につけてグラデーション(ぼかし)を表現する。

足の脂がついてしまうので裸足ではなく足袋を履くようにしている。

指示されず描けるようになるまで3年ぐらいかかる。波だけ練習すれば1ヶ月ぐらいで描けるようにはなる。

描かずして表す。目の隅にぼんやり見えればよいので細かいところまでは描かない。目の隅に見えた時に描いたもの以上のものが見えればよい。

幕が開いて1番にお客様が見るものだが、役者が出てきたら目から消えて役者の演技に集中出来る背景がよい。役者が芝居をしているのに主張している背景は避ける。

牡丹

牡丹が描けたら一人前と言われている。

牡丹を描くときは岩も描く。

質問コーナー

背景画は公演が終わったあとはどうするの?

保管はしない。スペース的にも湿気対策なども大変だし、将来的にも人を育てた方がよいので、また描くようにしている。

大変だった役者の注文は?

描いたものにお客様から直接ご意見いただくことが出来ないので役者の注文はお客様の注文だと思っている。

役者の注文は役者に育てていただいていると思っているので、「えーっ」と思うことは年がら年中あるが、その「えーっ」を「えーっ」のままで済ませない。

見せているのではなく見られているという意識を持たないと次のステップには進めない。

江戸の役者は一度決めたらあまり言わないけど、昔の関西の役者からは千秋楽近くになっても度々楽屋に呼ばれることがあった。これでよいと思わず新しい見方があることを教えてもらった。

仕事をしていて1番嬉しかったことは?

役者、劇場、お客様...色々な要求を処理しなければならず、その要求に応えることが出来ているのかを考えているのでホッとすることの方が多い。

初日が開いてお客様から拍手を2~3%は自分たちの仕事に対していただいていると思えるまで10~15年ぐらいかかる。それを思えるようになると次の段階に進める。

以前は9~17時で1枚を仕上げることを目標にしていたが、発注が増えたので現在は7人で1日2~3枚仕上げるようにしている。時間が足りないので省けるところは省いて仕事をするところは大事に仕事をするようにしている。

最後に

歌舞伎の見物料は決して安くはないが、役者の衣裳、かつらなど本物志向でよいものを身につけており、その値段で満足して帰っていただけるように役者も責任を持って勤めているので、ぜひ歌舞伎座にも足を運んでくださいとのことでした。